広報・PRサイドから見る
「オウンドメディア編集者に求める
スキル」とは?

広報・PRサイドから見る「オウンドメディア編集者に求めるスキル」とは?

おそらく今これを読む編集者の多くの方が関わっている「オウンドメディア」。雑誌ともPR誌とも違うこの媒体、何を意識して編集することが重要なのでしょうか。今回はスタートアップを中心にPRやマーケティング、事業戦略支援を行うgoodstory代表取締役の山田泰裕さんと、ITベンチャーを中心にPR部門の立ち上げから携わることも多いというフリー広報・PRの井関紀子さんに、企業側の視点で見る「オウンドメディア編集者に求めるスキル」について伺いました。

オウンドメディアは公園? 社内報? それとも年賀状!?

── そもそも企業はなんのためにオウンドメディアを運営するのでしょうか。

井関さん(以下敬称略)「客観性を保ったメディアとして情報発信したい企業と、もっと手前味噌の、広告に近い情報発信を行うツールと考えている企業に大きく分かれると思います。スタートアップには後者の方が多く、取材記事でのメディア露出ではメッセージが正しく伝わらないから直接発信しよう、っていう発想ですね」

山田さん(以下敬称略)「目指しているゴールでいうと、オウンドメディア黎明期はエンターテイメント的な表現を通して、広く“人集め”をすることを目的としていた傾向がありますが、最近ではよりターゲットを絞り、既存客が集うことを意識した “公園”のような場になっていると感じます」

井関「商材がtoB(対企業)かtoC(対消費者)かでも違いが出ますね。消費財ブランドなどtoCの場合、顧客の「ファン化」を目指し、商品開発のメイキングを公開するなど、SNSなどと連動しながら、共感を得る作り込みをしている傾向があります。最近はさらに双方向のコミュニケーションを加えて、プロジェクトチームのように読み手を巻き込む手法も登場しています」

山田「toCでは既存客との接触回数を増やす販促色が強いですね。一方toBの企業が伝えようとしているのは信頼感。もうひとつ、採用目的のメディアでは「表に出していない企業の顔を見せていく」という目的もありますね。さらに、社内報的な、内部のコミュニケーションツールとしてとらえているところも多いと思います。スタートアップで社員が一気に増えて社長が直接メッセージを送ることができなくなった時に、社内の共通言語を作る目的として活用しているんです。メルカリの『メルカン』がそのハシリ」

メルカン

井関「企業としてのブランディングであり、人材採用にもつながりますよね」

山田「ただ、自社が何を考えて、どこを目指しているのかが定まっていないと、メルカリの真似をしただけでは失敗するんですが(笑)」

── いずれにしても、単純に企業サイトへのアクセス数を増やすというような発想は減っているのでしょうか?

山田「確かにかつては、ざっくり「バズることをやってください」みたいなオーダーもありましたが、今ではバズったからといって売れるわけではないということにみんな気づいていますね。一部の上の世代の人を除けば(笑)。BtoBの企業はまだまだキーワード検索による流入も多いので、SEOを重視している企業もありますが、それでもひと昔前のようにSEOにとらわれた作りをしているところは少ないでしょう。そもそもtoBの企業は、PVがほとんど期待できませんから、そこを数値目標にすると作り手のモチベーションが保てませんし」

井関「さらに、拡散力に全く期待していない企業も一定数ありますね。こまめな年賀状(笑)のように、取引先に対して安定的に営業活動を行っていることを伝えるという役割です。PRの観点でいえばそれも正しいあり方だと私は思います」

編集者に求められるのは「思いを言語化する力」

── では編集者は、そのさまざまな目的の中で、何を意識して関わっていくべきでしょうか。

山田「さまざまな目的を述べましたが、実際には発注時点で担当者がその要件定義を正確に伝えられるケースは決して多くないと思います。認識しているかどうかすら怪しい。それを踏まえて編集者は、「ゴールとして読み手にどんなアクションを期待しますか」といったことをうまく質問できるか、その質問力が重要だと思います。その答えも少しずつ変わってくるかもしれません。毎回PDCAを回しながら「ゴールを一緒に探す」つもりで取り組むことが大切です。」

井関「カゴメの『&KAGOME』などはヘビーユーザーにターゲットを絞っていますが、こんなふうに読者ターゲットを明確に設定できている企業は稀です。また仮にスタート時点でターゲットを絞っていたとしても、社長のひと声でコロコロ変わったりすることも少なくないのが現状。担当者が社内である程度力を持った人でないと、編集サイドも翻弄されることは多いと思いますが……」

&KAGOME

山田「そんななかでも、その都度ディスカッションの労を惜しまずに向き合える編集者は頼りになります。編集者にも、こだわりが強い職人肌の人と、 “言われるがまま”傾向の強い人との両極に分かれがちですが、そのバランスをうまく取れることも大事だと思います。理不尽なことも多いなかで、忍耐力を保ちつつ、持論を押し通すのでも折れるのでもなく、広告制作に近い感覚をもって、クライアントに寄り添う力は必要」

井関「明確な制作意図を持たずに発注している企業も、それを編集者の腕でいい形に具現化してほしいと思っているんですよね」

山田「そう、オリエンシートは完成形ではなく、悩んでいる過程であることも多い。だから編集者はそれを汲み取って、そこから余計なものを引き算する発想が大事だと思います」

井関「私もフリーPRの立場で、企業側へのヒアリングの際に “ベンチマークしているものはありますか”という質問を投げかけることでイメージを掴む、ということもありますね。」

山田「そうですか! 私はむしろ、それは避ける派ですね。そこから出てきた答えが、適当だったりすることも結構あって、かえってブレたりするので(笑)。ただ、それを例にとれば“担当者の言葉が正解とは限らない”ということは覚えておいた方がいいかもしれません。自分たちが正しく言語化できていないものを再解釈して言語化するのが編集者の仕事だと、ある種、甘えている面はあると思います。事実、編集者は言葉のセンスが武器と言えますから、ヒアリングの時点でもその力が発揮できれば高く評価されると思います」

「データバンクとしての知識や視点」と
「掛け合わせて新しいものを生み出す力」

── では最後に、オウンドメディアに携わる編集者にメッセージを

山田「さまざまな側面はありますが、要するにオウンドメディアというのは企業のカルチャーづくりを担っていると思います。その意味で言うと、どんなコンテンツでも、その背景に常にぶれずにその企業のキャラクターが伝わる「何か」が流れていることが重要。そうでなければその企業が発信する意味がなくなってしまいます。そのためには、その企業への理解はもちろんのこと、同業他社の動向や業界の流れ、消費者行動の歴史やトレンド、未来予想などを踏まえて、道を指し示してほしいですね。そういう総合的な知識や視点というのは、検索しても出てこないものですし、編集者の実力が出ると思います」

井関「ふたりで高い期待ばかり語ってしまいましたが(笑)、私はオウンドメディアの編集者というのはビジネスプロデューサーのような存在であってほしいと思います。単に発注されたコンテンツを形にするだけでなく、もっといろんなことができるはず。その手法やビジネスモデルの提案もしてほしい。もともと何かと何かを掛け合わせて新しい価値を生むのが上手いのが編集者。その手腕を発揮してほしいと思います」

Profile

井関紀子

井関紀子/Noriko Iseki
いせきのりこ■新潟県出身。短期大学卒業後、全日本空輸株式会社へキャビンアテンダントとして入社。後に株式会社ドクターシーラボの広報グループ長として8年半勤務。ファッションアプリを運営するIT企業の広報マネージャーを経て、2015年11月よりフリーランス。現在はジャンルを問わずスタートアップを中心に複数の企業のPRを担当。

山田泰裕

山田泰裕/Yasuhiro Yamada
やまだやすひろ■CEO / Story Designer / PR Tailor
「事業成長につながるPR戦略」をコンセプトに、スタートアップ企業を中心とした“新しい価値“を社会に提供し、社会課題の解決を目指す企業や団体に向けて、PRドリブンでの経営/事業戦略やマーケティング戦略、プロダクト/サービスコンセプト開発、コミュニケーション施策のプランニングとプロデュースを手掛ける。

取材&文/吉野ゆりこ

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