『ドットエスティ』のウェブコンテンツは、
なぜこんなに魅力的!?
クリエイティブの秘密に迫る!

『ドットエスティ』のウェブコンテンツは、なぜこんなに魅力的!?クリエイティブの秘密に迫る!

Pomaloが運営する、ファッションやコスメ、ライフスタイル分野のコンテンツ事例をまとめた『Mag Collection』というサイトがあります。この担当者が毎日様々なサイトをチェックする中で気づいたのが、「.st(ドットエスティ)内の特集ページはどれも個性的でクリエイティブが優れている!」ということ。凝ったデザインや動きのある構成など、魅力的な特集ページはどんなビジョンのもと、どうやってつくられているのか、その秘密を探るために、『ドットエスティ』の責任者である株式会社アダストリア執行役員兼マーケティング本部長の田中順一さんに、旧知の仲でもあるPomalo代表の高橋崇之がオンラインインタビューしました。

キーワードは
「ルール半分、自由半分」

高橋 お久しぶりです! 今日は、アダストリアさんの『ドットエスティ』の特集ページのデザインや構成がどれも凝っていてユニークなので、いったいどういう指揮の元ページがつくられ、どういう狙いで続けられているのかなど、色々とお話を伺いたく、オンラインですがお時間いただきました。

田中さん(以下敬称略) ありがとうございます! 弊社の場合、自社サイトの他に、モールという場があるので、自社サイトの立ち位置というのは、“ブランドを売る”のが目的。そのうえで、ブランドの構成要素として商品があるんです。だからコンバージョンだけでなく、世界観を伝えることを何より大切にしています。

高橋 それをはっきり言えるのって、大事ですよね。目的が明確だからこそ、ページにもオリジナリティが出せるんでしょうね。コンテンツ制作は社内ですか? 外部委託ですか?

田中 それは3パターンあって、他の企業とのコラボ企画などであれば、デザインや制作は外注、それ以外は基本内製ですが、ウェブ制作チームがつくる場合と、マーケティング本部のクリエイティブチームがつくる場合があります。機能的特徴の強い商品ならウェブ制作チームが作った方が良いとか、このバナーだけはクリエイティブチームがつくるとか。この配分に正解があるわけではないし、時代とともに変わる部分もあると思います。

田中順一/Junichi Tanaka

田中順一/Junichi Tanaka
1982年生まれ。カタログ通販、インターネット広告代理店を経て、2011年にアダストリアに入社。WEB事業を中心に従事し、自社ECサイト『.st(ドットエスティ)』の成長を牽引。2021年3月より現職。EC、データ、デジタル戦略などを統括する。

高橋 社内外ともに、どこがつくるかの判断にもその時々の明確な狙いがあるんですね。ウェブ制作チームは何名でやっているんですか?

田中 10年前に始めた時は、アルバイト1名でしたが、現在は8名体制です。とはいえ、30ブランドありますから、ひとり3、4ブランドを担当して、各ブランドのEC担当者とブランドの世界観を共有して形にしています。よくやってるな〜と思いますよ。

高橋 世間では、予算などの問題もあって、シンプルなつくりの特集ページが多い中、ドットエスティは動きのある画面が多いですよね。これはなにか狙いがあるんですか?

田中 ブランドごとに、伝えたいものも、どういうものが良いかも異なるので、一律に“動きをつければいい”というものでもないし、それぞれが出した結論がたまたま動きのあるものだったという感じです。とにかく自社サイトはただ陳列して売るだけではダメ。“タイミング”と“意思”が重要です。今、自分たちがどういう商品をどんなふうに見せたいのか、それがお客さんにメッセージとして伝わるのはどういう表現かを考えて選択しています。だから、予約販売やコラボ商品を発売するとき、モールと自社サイトでは圧倒的に自社サイトが売れるんです。それはそこに「強い意思」があるから。サイトのトップに特集ページがあって、“今はこれを熱烈に伝えたいんだ”っていうことが伝わるビジュアルがあれば、お客さんだけでなく、それを見たリアル店舗のスタッフも個人のSNSで拡散したり、店舗で店頭に陳列したり、後押しする動きが勝手に連鎖していくんです。

高橋 強い意思があることで心が動くページになっているんですね。各ブランドのEC担当者が外注する際には、“落とし込む形”の具体的なページデザイン指示しているんですか?

田中 発注する時点である程度、イメージはできていますね。今は誰でも、常にスマホでいろんなデザインアイデアを目にするし、簡単にその情報をストックできるから、各自そういうストックはたくさん持っていますよ。

高橋 なるほど。とはいえ、(内製・外注含め)複数のチームに指示していると、クオリティやトンマナのコントロールが難しい気もするのですが、共通ルールのようなものをつくっているんでしょうか?

田中 僕は「ルール半分、自由半分」ということを意識しています。

高橋 それは良い言葉ですね!

『ドットエスティ』のサイトトップ画面

ドットエスティ』のサイトトップ画面。ページ上部から魅力的なコンテンツがさっそく並ぶ。(2021年9月30日現在)。

田中 もちろん最低限意識することはあります。リンクをちゃんと付けようねとか、BUYへの動線はわかりやすくしようねとか。でもルールやコストを明確に縛ってしまうと、それが一番になってしまって、みんなそこにハメようとして、結果つまらないものになる。あとは、プロダクトプロモーションなのかブランディングイメージなのか、ページの意図に沿った表現になっているかどうかくらいです。

高橋 最も大事な目的と一定のルールは決めているということですね。それ以外は責任者としては意見せず、各担当者の裁量で?

田中 ファッション業界というのはECでもショップでも、価値は現場の人がもっているんです。僕はショップのスタッフみたいに上手にスタイリングもできないし、クリエイティブも現場の人の方がプロ。そこは得意な人に任せないと。

クリエイティブだけで
成功はあり得ない

高橋 次にそれぞれのページの評価についてお伺いさせてください。ECサイトという販促目的のサイトにおいて、多種多様なページはどのようにして評価されているんですか?

田中 半年に一度、顧客にNPS(ネットプロモータースコア/他人への推奨度を聞く方式で企業やブランドへの愛着・信頼を測る指標)調査しています。ただ個別のページに対してとっているわけではないし、売り上げそのものだって在庫状況や市場の状況、コロナみたいなこともあるわけで、複雑な要素で決まってきますから、それほど重きは置いていません。NPSは健康診断みたいなもので、大まかに正しい方向に向かっているかどうかの確認です。あとは、一番売れたアイテムのPVがどう推移しているか、大きく伸びているならそれは何かが伝わった証拠なので、タイミングなのか、ビジュアルなのか、そこを言語化して各ブランドに横展開するようにしています。結局すべては戦略の掛け算であって、クリエイティブと制作だけで突破できるものではないので。

高橋 そう考えると、特集ページで考える企画やコンテンツはECや店舗、顧客イベントなど連携することでマーケティング効果が高まるように思いますが、ウェブ制作チームとウェブだけに絞ったチームにしているのはなぜでしょうか?

高橋崇之/Shuji Takahashi

高橋崇之/Shuji Takahashi
1981年生まれ。2006年よりインターネットビジネスに関わり、 ファッションは2008年から広告を中心に関わる。エルメス、ZARAなどコミュニケーションやデジタル戦略を手掛ける。アプリベンチャーやEC支援企業の部門長を歴任後、2016年にPomalo株式会社を創業。出版社や百貨店、大手企業のDXプロジェクトの支援や、一般社団法人「日本編集制作協会」理事として編集業界の活性化に取り組む。

田中 良い質問ですね(笑)。最初はウェブを常態化したくてあえて専門チームをつくったんですが、今では社内に十分なデータも蓄積されたし、時代としてもその当初の目的は果たしたといえます。現時点でもすでにウェブ制作部門と営業部の横断プロジェクトも増えていますし、部署を独立させている意味はもはやなくなっていると思います。

高橋 このインタビューを読んでくださる方の多くはエディターの方です。仕事の依頼を依頼立場で考える、“これをこんなふうにつくってください”と依頼した際に、このプロジェクトがブランド全体で考えるとどのような役割や位置付けなのか、それこそブランディングなのか販促なのかも考えて、プラスアルファのアイデアを出していただける方なら貴重ですよね。

田中 そうですね。これはもちろん、僕自身もいつもできているわけじゃないけれど、発信する以上“目的は何か”という、明確な軸が大事。今や世の中は情報に溢れていて、可処分時間の奪い合いだし、自分たちが発信しようとしている情報は、世の中の99%の人は興味がない、と思ったほうがいい。その中で絶対伝えたいものは何なのか、誰に伝えたいのか、どうすればそれが届くのか、全てはそこから始まるし、そこに尽きると思います。

高橋 その強い意志を大事にするからこそ「ルール半分、自由半分」にたどり着くんですね。とても重要なお話を伺えました。本日はありがとうございました!

撮影/千葉タイチ 取材&文/吉野ユリ子

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